私はやってない 信じてくれたことへ今も忘れぬ感謝の思い

独身時代に働いていた職場で、私は総務部に属していました。

私が入社した頃、ちょうど会社に『受付』という場所ができ、総務部の女子社員が交代で受付業務をすることになったのです。

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馴染めなかった新入社員

私は当時、19才になったばかりでした。

会社にいる女子社員は本当に真面目な方ばかりで、髪の毛にカラーをし、パーマをかけていた私は正直浮いていました。

確かに今の私が当時の私を見ても、『この子、すぐ辞めちゃうかな』と思わずにはいられない雰囲気はあったと思います。

私と年の近い女子社員も同じ部署にはいないこともあり、見た目も浮いていた私は馴染むことができず、職場に慣れない日々が続きました。

ですが、仕事だけはどうにか踏ん張って頑張っていました。

部署的に会社の役員の方の雑用を引き受けることが多かったのですが、頼まれたことは全力で答えを出す、そう努力をしていると、徐々にそのやる気を認めてもらえ、上の方から信用されるようになっていったのです。

それでも『社会人としてきちんとした格好をしなければならない』ということで、受付にいるからには髪の毛を黒くするように遠回しに言われた矢先、私は取締役から突然応接室に呼ばれました。

犯人にされた私

まだボーナスも現金支給、振込みですべてやり取りすることが完全な会社ではありませんでした。

そんな中、ある取引先の20代後半の男性社員が、受付に現金を預けたというのです。

金額は20万円。

しかし、肝心の現金は経理に渡っていないと。

私はだんだん嫌な予感がしてきました。

その男性社員の話では

『「経理部に渡してください」と髪の毛の茶色い受付に渡した

そう言っていたと。

そうです。私です。私も私しか思い当たりませんでした

嫌な予感は見事に的中。

ですが、身に覚えはまったくありませんでした。

受付の流れとしては、受付で預かったものは届け先を聞いた後、各部署のメールボックスに入れるのが決まりです。まだできたばかりの受付でしたので、預り簿のような記帳は義務付けがありませんでした。

私は流れ作業の様に、経理部長様と書いてあった封筒を経理部のメールボックスに入れたのだろうか?

何度も思い返そうとしましたが、頭が真っ白になってしまい、思い出せません。

私はこの時ほど自分の見た目を恨んだことはありませんでした。

髪の毛、黒くしておけばよかった…

そんなどうしようもないことを考えながら、私は「知りません」それ以外は何も言うことができませんでした。

暖かかった大きな手

泣くものか…そう思っていたのに、取締役から「お前を疑っているわけじゃない、ただ覚えているか確認しているだけなんだよ」そう言われ、ずっと奥歯をかみしめながら堪えていた涙がこぼれ落ちてしまいました。

せっかく信用されるように頑張ってきたのに。
この見た目じゃ違うといっても誰も信じてくれないかもしれない。

悔しい…

その封筒、どこに行ったんだろう。

私、何してたんだろう。

止まらない涙を必死で抑える私に、向かい合って座っていた取締役は「泣くな泣くな」と大きな暖かい手で私の涙をぬぐってくれました。

辞めたら認めることになる

話が終わり、受付に戻り、とりあえず私はメールボックス付近を探しました。

もしかしたらどこかに落ちているかもしれない。

見つかるかもしれない。…見つかって欲しい。

そんな思いも空しく、結局会社が損失を埋める形となりました。会社的には『受付を改善する』ということで受付簿を置くこととになり、私は特に罰を受けることはありませんでした。

その後会長からも呼ばれ事情を説明しましたが、私に疑いの目を向けるでもなく、責めるでもなく「そうかそうか」と聞いていました。そして

「お前が責任を感じることは無い」

そう言い切ってくれました。

ですが私は、会社の中に一人でも私を疑っている人がいるかもしれないと思うと、いてもたってもいられませんでいた。

私はまだ19才の新入社員です。
相手は20代の社会人歴も長い男性社員。

どちらの話が信憑性があると言えば、男性社員かも知れない。

会社を辞めようか…

そう思いましたが、ここで辞めたら認めたと同じだと思い、私は受付業務に最新の注意を払って仕事に向き合いました。

その人はその後もなんどか会社にくることはありまが、私は直接話をすることもありませんでした。

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利用された私

その後も私は辞めることなく働きました。

信用を取り戻す思いもありましたが、たとえ形だけだとしても私を信用してくれた会社に応えたかったからです。

ですが数年後、在職中に取締役は癌で他界してしまいました。
私はあのときのお礼もきちんとできないまま・・・

そんなある日、私は会長室に呼ばれました。

「覚えているか?」

と話し出したあの時のこと。

忘れるわけがありません。
でも思い出したくもない出来事です。すると会長は言いました。

「あいつが会社を辞めたらしい。あの時の金もあいつがもっていったんだぞ」

私は時が止まったかのように会長を見つめました。

「本当ですか?」

と聞くと

「あぁ本当だ」

その男性社員はどこかのボンボンらしいのですが、昔から手癖が悪く、会社にお金を置いておけば盗んでいたと。
その会社ではその人の仕業ということは周知のことで、ついに自主退社という結果になったと。

会長や取締役は最初からその男性社員がやったことを疑っていたのです。
ただあくまで『確認のために』私に聞いてきたのです。
あの大きな手から伝わった優しさを思い出し私は泣けてきました。

罪をなすりつけられて嫌な思いをしたよな…

会長はそう言って私の言いたいことを代弁するかのように、怒りを露わにしていました。

確かに思えば中身はお金です。なぜその人は直接経理部に持っていかなかったのだろうか。
その時は若くて気づけませんでしたが、本来ならそこで領収書なり証明を受け取るべきことです。

それを私に渡したとにして曖昧に片付け、証拠もないことからうやむやにさせたのです。

私は利用されたのです。

信じてくれていた

その男性に文句を言ってやりたいところですが、もう過ぎたこと。

関わりたくもありません。

私はせめて亡くなった取締役に伝えたくて、墓前に手を合わせ、報告させてもらいました。

そして、ありがとうございましたと・・・

あとで聞いた話ですが、当時、私の知らないところで会長や取締役が私をかばってくれていたと聞きました。

まだ入社して数カ月の信用ならない私のことを会社は守ってくれたのです。

私は感謝の気持ちでいっぱいになりました。

踏ん張ってよかった

潔白が証明されたことで、私は晴れて社会人生活を生き生きと過ごすことができ、その後結婚するまでの約10年間、この会社にお世話になりました。

最初は見た目うんぬんもありましたが、さらに若い子も入ってくることで、徐々に浮くことはなくなり、気がつくとすっかり会社のお局様になっていました。

仕事もそれなりに勤めることができ、退職時、沢山の方に餞別の言葉をいただき、この会社で働けたことに深く感謝しました。

最初はどうなることかと思いましたが、この会社で自分の人生に欠かせない人たちに多く出会い、今もつながりのある仕事を超えた人間関係を築けたことは、私の宝物になっています。

もしあの時ヤケになって辞めていたら、もしあの時信じてもらえなかったら、もしあのまま真実があやふやなままだったら、私がその後送る青春時代のようなOL時代はやってこなかったことでしょう。

私に出来た精一杯のこと

あの出来事が私の人生に必要だったのかどうかは分かりません。

ただあの事をバネにして、私はやっていない、それを仕事で証明するために、負けたくないの根性で食いしばり頑張れたのだと思います。

あの時私を信じてくれた人たちに、私を信じてよかったと思ってもらえるように。

私は場所は違えど、これからも人の想いに応えていけるような仕事をしていきたい、そう思っています。

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