母の最期「ありがとう」は言えなかった

ドラマなどではよく、大事な人が息を引き取る瞬間に
「ありがとう」
そう声をかけるシーンがありますよね。

私も漠然と大切な人の最期に立ち会う時はそんな風に声を掛けるのかな・・・

そう思っていました。

ですが2015年、母を看取るとき、私は

「さよなら」も「ありがとう」も何も言うことができませんでした。

なぜならそれは母にとって本当の最期を意味してしまうような気がしたからです。

母の意識が薄れゆく中で、
「ありがとう」
と言うことが、母に
『もうすぐ死んじゃうんだよ』
と言っているようで、私にはどうしても言えませんでした。

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母の病気が分かった日

母の病気が分かった時、私にとって一番辛い瞬間でした。

どれだけ泣いたことでしょう。

まだ母は生きているのに失うことの怖さでいっぱいでした。

買い物に行っても、今まで気にすることもなかった母娘に目がいきます。

なぜうちばかり
なぜ母なのか

そんなことばかり考えては涙が溢れるのです。

そんな時主人に言われました。

泣いてばかりいたって仕方ないだろ。
泣いたってよくならないんだから。
今出来ることを考えた方がいい

ようやく私は目が覚めました。

母を引き取ることも視野に入れて、今後の闘病生活を全力で支えよう

そう心に決めました。

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『いつも通り』を感じて欲しくて

母の闘病生活が始まりました。

私の中では、『母と残りの時間をどう過ごすか』に重きをおいたのですが、先が見えない時間の中で支えていくということは肉体的にも、精神的にも、想像以上に大変なことでした。

不安定な母に責められたときは、さすがに心が折れそうでした。

放棄したくなることもありました。

それでも「一番大変なのは母だから」と自分に言い聞かせ、普段通りにすることで母を安心させようと心がけました。

そんな中、母が安定しているときは、他愛もない話をよくしました。
日常の事、昔の事、私の家族の事や世間話。

母の病気は実はそんなに悪くないんじゃないか、そう思うくらい、いつも通りの時間が流れます。

母が「いなくなること」を前提とした会話はまったく二人の間にはありませんでした。

まるで現実逃避をしているかのように。

いつもと変わらない時間だったのです。

最後の言葉

亡くなる一ヶ月前、母が急変したときは、心の準備をする一方で、母に聞きたいことも、言いたいことも、まだまだたくさんありましたが、不安がる母を前に何も言うことはできませんでした。

心のどこかで、遠くない先にくるだろう『そのとき』を、頭ではわかっていても、お互いに覚悟することは簡単ではありませんでした。

母は生きることを諦めてはいませんでした。

そんな母に、『いかにもな言葉』を言うことなんてできなかったのです。

いつでもまた明日がくるような気がして、
「また明日ね」

そう言うと、母は優しい顔をして笑って頷きました。

あのとき、私はその母の笑顔を見て、いつもより早めに病院を後にしたのです。

思えば、「また明日が来る」そう思って掛けたその言葉が、母と交わした最後でした。

『ありがとう』が言えなくて

母の意識がなくなり、もうダメかと思ったその夜に、母の意識が戻りました。

その時は伯母がそばにいてくれたのですが、水を欲しいと言ったそうです。

決して飲める訳ではありません。

唇を湿らせることだけでしたが、母は力を振り絞って生きようとしていました。

なんて力だろう。
看護師さんも驚いていました。

母はまだ生きることを諦めてない

そう思えば思うほど、「お母さんありがとう」なんてとてもじゃないけど言えませんでした。

大丈夫だよ

大丈夫だからね

そんなことばかり言っていたように思います。

安心させてあげたかった。
安心して欲しかった。

でも本当は

「お母さん、死なないで」

そう大声で言いたかった。

でもそんなことは絶対に言えなくて。

ただそれでも、孫を心配している母に

「子供たち…ちゃんと育てるからね。」

そういうと、母は強く強く頷いてくれました。

伝えるなら元気なうちに

母を看取るとき、最期を意識した言葉を掛けなかったことが良かったのかは分かりません。

こればかりはそれぞれの家族の形があるかと思います。

ですが私は、後悔はしていません。

うそ。。。
ほんとうは、これで良かったのか、自分でも分かりせん。

母が病気になってから、後悔がないなんてこと、今日まで一つもありません。

今でも夢に出て問う。
一つだけ、聞きたかったこと。

「お母さんは私が娘で幸せだった?」

そして

「私はお母さんの娘で幸せだったよ。」

そう、伝えたかった。

でもそれは母が元気なうちに。

病気になってしまうと、何もかもが最後の言葉のように聞こえてしまうから…

元気なうちに、たくさんたくさん、伝えればよかった…

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